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着る人を選ばない服

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美しく染められた青。
濃いもの薄いもの、グラデーションまでと、同じ青でもさまざまで、全く同じものはない。

これらの製品は『藍染め』と呼ばれる技術で染められたもの。見かけたことがある方も多いと思いますが、どうやって作るのかをご存知の方は少ないのではないでしょうか。

日本の藍染めの歴史は古く、江戸時代に広まり、服だけでなく暖簾やのぼりといった様々なものに使われるようになりました。しかし、藍染めに欠かすことのできない藍を育て、藍染め液の原料となるすくも(蒅)を作る藍師は、年々減少し今では数えるほどになってしまいました。

藍染めを無形指定文化財として保護している地域もあり、藍染めの伝統を後世へと受け継ごうと大切に守られてきました。

藍染めの技術を受け継ぐ

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そんな藍染めの技術を徳島で学び、個人で活動を続ける方が東京にいると聞き、東京・町田市にお住いの坂 由香里さんの工房を訪れました。

坂さんは大学卒業後に、徳島県の無形文化財保持者である古庄紀治氏に6年間師事していました。そして、一児の母になった今も、この東京の住宅街の一角に工房を設け、個人で藍染めの活動を行っています。

今回は、染師である坂さんにお話を伺ってみます。

藍染めの本場、徳島へ

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坂さんが、藍染めのことを初めて知ったのはテレビでした。ものづくりに携わりたいとの想いから、単身で徳島へと渡り、染工場の門を叩きます。

「高校生の頃にテレビのお天気中継で、藍染め液に浸けると茶色っぽい色が、空気に触れてばっと緑っぽく発色し青くなっていくのを見て、すごいなと思ったのが最初でした。その後、大学は服飾系に行きましたが、もっと作る実感が持てることをしたいと思った時に、ふと藍染めのことを思い出しました」

「高校生の時に、学校の先生に藍染なら徳島と教えていただきました。その後、大学生になってから、父に徳島に藍染をしに行きたいと相談して、古庄染工場にたどり着きました。夏休みを利用してお手伝いで行かせてもらい、大学卒業後には見習いという形でそのまま転がり込みました」

坂さんが選んだ徳島は、もともと原料のすくも作りが昔から盛んで、それに伴い染屋さんも他の地域に比べると比較的多いんだという。

藍染めやるなら徳島。

学校の先生の言葉の通り、徳島で藍染めのキャリアをスタートさせます。

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藍染めは、使用する材料が、国産のすくも(藍の葉を乾燥、発酵させた物)灰汁、消石灰、小麦ふすまの4つのみ。非常にシンプルです。

これらを用いて『天然灰汁醗酵建て』と呼ばれる昔ながらの技法により、藍染を行っています。

染める際にできる独特の模様は、主に『絞り』と呼ばれる方法で、柄付けを行います。ひと針ひと針丁寧に手縫いを施し、そのまま藍染め液に浸け絶妙な力加減で絞ることで、染める部分と染めない部分に美しいグラデーションが生まれます。

絞りと呼ばれる技法には、生地を織った状態で染める『折絞り』、板で強く挟み圧迫する『板締め絞り』、染めない部分を平縫いして縛って染める『根巻き絞り』など、さまざまな絞り技法によって柄を表現します。

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実際に藍染めをやってみてどうでしたか?

「古庄では絞り全般をしていて、チクチク針で縫うやり方だったので、服飾関係に行ってたのもあってぜんぜん苦じゃなく、むしろ向いてると思いました。それに工場の人数が少なく、一人一人が最後まで責任をもたないと現場が回らないので、最初から一通りやらせてもらえて自分で作っている感じがおもしろかったです。それに、例えば暖簾だと二枚の垂れを別々の人が絞ると、力加減に差があり雰囲気が違ってしまったりするので、できるだけ一つのものは一人といった流れでした」

最初から多くのことを任せてもらえる現場。やりがいもありそうですが、責任も大きそうです。

「最初の頃は、玉どめが難しかったりするんですけど、それも慣れてくればできるようになっていくので、技術的なことで苦労はそんなになかったです。下絵が書いてあって言われた柄をチクチク縫う。ひたすら縫って絞るの繰り返しです」

「ただ、慣れてくると展示会があり、テーブルセンターの柄を考えとくように言われたりして戸惑ったり、柄が思い浮かばないとかはありましたね」

東京で始めたオリジナルブランド

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古庄染工場で6年半の経験を積んだ坂さんは、ご主人の転勤を機に東京へ戻ることになります。

そして、戻ってからしばらくの間は、藍染めの世界から離れていましたが、八王子にある知人の倉庫を借りたった一人で藍染めを再開します。その時の2012年には、オリジナルブランド『sayu(さゆ)』を立ち上げます。

「主人の転勤で東京に戻ることになり、場所もなかったので3年ほどはやってませんでした。でも知り合いが、せっかく技術があるのにもったいないから遠いけどうちを貸してあげるよ。って言ってくれて」

八王子で再開してから一年が経った頃、今のご自宅を2015年に購入し、工房をそちらに移します。

高台に建つ坂さんのお宅からは、とても見晴らしの良い景色が広がっている。そんな一番のロケーションの場所を潰してサンルームを増築し、藍染めをするための工房を作りました。外観からは、まさかここで藍染めが行われていると気づく人はいないでしょう。

家を買うにあたり一番に求めた条件は、藍染めができることだったと、坂さんは笑って話します。

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外観からはサンルームにしか見えない

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工房の中に入ると藍染め特有のツンとしたすっぱい匂いが鼻をつく。

藍染めは、発酵で色が出るため、甕の中では静かに発酵が進んでいます。この発酵具合によって、藍染めの仕上がりに大きな差が生まれるんだそう。

設備などはゼロから揃えたのでしょうか?

「そうですね。でも、建物があって甕(かめ)があれば、藍は建てられます。大きな機械が必要とかではないんです。すくもは注文して送ってもらえるので、買ったのはプラスチックの容器と脱水だけできる二層式洗濯機ですね」

古庄染工場では、取引先にお土産屋さんが多かったこともあり、暖簾やランチョンマットなどの平たいものが中心だった。今もハンカチや手ぬぐいといった小物も染められますが、坂さんが独立してもっともやりたかったのは、自分が着たいと思う服を染めることだったそう。

「染色用の服は市販されているものがなく、染料屋さんに行くと売ってたりしますが、少し世代が上の方向けのデザインだったり、量がそんなにないので白の状態でも結構なお値段するんです」

「自分が趣味で着るならいいけど、それを販売となると高くなってしまうので、かわいくてそんなにお値段しなくて染まりやすい生地を探して、浅草橋になる『余白』さんを紹介してもらいました」

たまたま縁あって出会った余白の服は、染まりやすく値段も比較的リーズナブル。藍染めに非常に向いていました。しかし手間のかかる藍染め製品は、それでも値段がどうしても高くなってしまいます。

「藍染めをご存知の方は多くても、値段を見るとみなさん驚かれますよね。やっぱりいい値段しますよねって。一回浸ければできあがると思っている方も多いですが、どうしても時間と手間がかかるんです」

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藍染めの染め方は、ハンカチでも洋服でも基本的にはどれも同じ。

30分浸けたら出して10分干すという作業を一日に3~4回ほど行い、これを7日間繰り返します。つまり、完成までには最低でも一週間ほどがかかることになります。染まりづらい生地や藍の調子が悪いなど状況によっては、もう少しかかる時もあるそうです。

藍染めで一番大切なことってなんでしょうか?

「甕の中の状態をキープすることです。藍を建てるのはある程度タイミングを掴めばできるようになりますが、管理が大切です。うまく保てないと何カ月も藍甕の状態をキープしておくことができません」

「アルカリが高すぎても低すぎても発酵してくれなくて色が出ないので、その状態を見極めるのは経験が必要です。季節や気温によってどうしても発酵の具合が変わるので、そこを頭に入れて管理しないと、染まらない!みたいなことが起こります」

甕の中は、空気がなければ発酵しないため、ぬか床と同じように定期的にかき混ぜなければなりません。だからこそ、そこに沈んだすくもを混ぜるのも甕の状態をキープする上で大切な作業の一つ。夏場は一週間ほど放置すると腐敗してしまうため、この時期は長期で家を空けることができないんだという。

万が一、管理に失敗してしまったらどうなるのでしょうか?

「戻らなかったら作り直しですけど、リカバリします。どこかに色は絶対あるはずなので、アルカリや糖分を調節すると頑張って出てくれます。そのへんも分かってないとできないのが難しいと言われてるところです。化学藍と違って色素がたくさん入ってるわけではなく発酵で色が出るので、そのへんのバランスが難しく、夏場は特に崩れやすいです」

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乾かし方も季節によって変わるのでしょうか?

「乾かし過ぎるとあくが生地に残ってしまいます。暖かくなると手ぬぐいやハンカチみたいな乾きやすい薄い生地の場合は、酸化時間が短くなりますね」

坂さんの工房には、3つの甕が並んでいる。この甕は、それぞれ藍建てをした時期が違い、色が全て違う。先に藍建てをした方が薄いので、薄い方から濃い方へ徐々に染めていくんだそう。

これまでに販売した商品の染め直しや、持っている服を染めていただくことはできるのでしょうか?

「できれば長く着てもらえたらなと思ってるので、染め直しももちろんできますし、お持ちの服を染めることもできます。ただ、生地によって染まりやすい染まりにくいなどがあるので、まずは気軽にご相談いただければと思います」

服が蘇る

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坂さんは年に3回ほどしか藍を建てないそうですが、ちょうど取材時は建てたばかり。タイミングとしては非常に良いということで、取材時に自分たちの服を持参し、実際に染め直しをしていただくことにしました。

藍染めの良いところは、黄ばんでしまったり、シミなどの汚れが付いてしまった服も染めてしまえば気にならなくなります。さらに、防虫効果や消臭、紫外線防止、さらに生地を強くするといった効果が期待できるので、着れなくなった服をもう一度蘇らせることができます。また、坂さんの行う天然灰汁醗酵建ては、化学建てで作られて化学藍と比べ、色落ちや色移りの心配がほとんどありません。

坂さんに今回お願いした服は、Tシャツ2枚、襟付きシャツ、アウター、もんぺ。襟元が黄ばんでいるものや、シミが付いてしまったもの、薄汚れてしまったものばかり。

果たしてこれらの商品が、どのように変わるのでしょうか。

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後日、坂さんから服が染め上がったと連絡をいただき、郵送で商品を送っていただいたものがこちら。

届いた箱を開けると、美しく染まった服とともに坂さんから一枚の手紙が添えられていました。そこには、取り扱い方法はもちろん、比較的染まりやすい生地だったこともあり、服によって濃度を変えてくれたことが書かれていました。

染まり方は服によって違い、染めてみないと分からない部分もあります。現場判断で服に合う濃度に調整してもらえるのも、ひとつずつ手作業で染められる藍染めの魅力なのかもしれません。

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黄ばんでいた襟元はご覧のとおり。汚れはもちろんタグまで綺麗な青に染まり、見違える仕上がり。これまで長く愛用していた愛着のある製品ではあるのに、こうして見ると全く違った印象の服になっているのは、なんとも不思議です。

捨てるに捨てられなかった愛着のある服たちが蘇るのは、ものを捨てる寂しさがなくなるだけでなく、もう一度着れるという喜びも得られます。染める前と後の様子は別の記事で詳細にご紹介させていただきました。(※記事の最後に詳細リンクがありますので、そちらをご確認ください)

着る人を選ばない服

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坂さんの藍染め技法には、他の方と大きく違うポイントはありますか?

「建て方のアレンジは個人差があるかもしれないですけど、基本的には誰に教えてもらったかが大きいんじゃないかな。入れなきゃいけないものは限られているので、その分量やタイミングが各々で若干違うくらいで、そこまで大きな違いはないと思います」

坂さんのオリジナルブランドsayuは、アパレルメーカーさんの洋服を染めて作られている。できあがった服のタグは、メーカーのものがそのまま付いており、sayuとしてのタグは付けられていない。

これにはターゲットを絞りすぎず、幅広い世代の方に着てもらいたいとの想いがあり、その想いの通り坂さんが作る服は着る人を選びません。

「基本的には、自分が着たいものを作ってしまいがちなので、イメージしてるのは同年代くらいの方です。ただ、年齢で着れなくなるような色ではないので、意外と若い子が着ても、お年を召されたおばちゃまが着ても、割と誰が着ても様になるなとは思っています。男女も選ばないですし」

藍染めされた服は、着ていくうちにさまざまな表情を見せる。

どの色も着る人を選ばないし、染め上がった濃い青の状態から、着て行くうちに色が自然と馴染み、不思議と服がその人に寄り添っていくようだ。色が少しずつ落ち、またあらたな表情に変わっていく様子は、まるで服が生きているかのよう。

染めの技術も、すくもも、残したい

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藍の原料は、蓼藍(たであい)と呼ばれるタデ科の植物。これを収穫し、約100日間にわたり発酵させてできる藍染料すくもは、藍染めには欠かすことができないもの。しかし、すくもを作る藍師の数は少しずつ減っており、彼らがいなければ藍染めの技術も途絶えてしまいます。

「江戸時代の頃は、町に一軒は染屋がいたくらい全国で作っていました。それが化学染料などの普及でだんだん作られなくなってきて、今は徳島と兵庫と北海道くらいしか国内で作ってるところは聞きません。それに、いろんなところですくもが足らないと言われたりもしているので、すくもを作る人が増えてくれたらいいなとは思います」

藍染めに欠かせないすくも作りには、ある程度の量と場所が必要になるため、個人で作るというのはハードルが高く、坂さんの現状ではすくもから作ることは難しいと言います。

「年間で使うすくもは一俵(50kg)前後くらいです。刈り取って乾燥させると小さくなるので、もし個人で自分が使う一俵分くらいを作ろうとしても、結構な量が必要になると思います」

「蓼藍は、雑草みたいな草なので基本的にはどこでも育てられます。ただ、すくもにするための乾燥と発酵には、森や林で落ちた葉が分解されて腐葉土になる状態を人工的に作るので、 余分な水分を土に吸い込ませ、空気中の乳酸菌などと反応させて発酵してくれるような広い土間のような場所が必要です」

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今後、sayuはどのように活動されていくのでしょうか?

「規模を拡大しようとは思っていません。絞るのも染めるのもわたし一人なので、ある程度限界があり、とりあえずここで回していける分だけで十分です」

「ただ、やっぱり売り先がないと作っても意味がないし、まだ甕を休ませてしまっていることがあるので、もうちょっと頑張って活躍してほしいので、コンスタントに作れるように販路は作っていきたいなと思っています」

安価な服が出回る今の時代に、藍染め製品はハードルが高いかもしれません。

しかし、作られる過程を知り、そして実際に着用し日々変化していく楽しみは、安価に作られた製品では決して味わうことができません。

育っていく過程も楽しみながら、長く大切に着てもらいたいなと思います。

\実際に製品を染めていただきました/

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ぼくらの持っている服を、坂さんに染めていただきました。ビフォーアフター形式でどのように変わったのか詳しくご紹介します。Tシャツやコート、もんぺも美しく染まり、がらりと雰囲気が変わりました!

ビフォーアフターはこちら

\藍染め相談会を開催します/

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伝所鳩に坂さんをお招きして、一日限りの藍染め相談会を開催します!汚れてしまったり、服の趣味が変わってしまって着れなくなってしまった(着なくなってしまった)服を伝所鳩に持ち込んで、坂さんに藍染めを依頼してみませんか?コロナウイルス感染防止対策として完全予約制の一組ずつの対応とさせていただきますので、必ず下記申し込みフォームよりご予約の上ご来店ください。

開催日:2020年6月7日(日)
参加人数:各回最大2名まで
場所:伝所鳩(東京都墨田区東向島1-23-13-2F)

ご予約こちら

(2020.05.26)

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