のしごとのトップ / オリジナルはんてん(伴天・半纏)が完成 (宮田織物 × day un dayのしごと)
宮田織物は、1913年に久留米絣の工房として福岡県筑後市で創業。昭和40年に『わた入れはんてん』の生産を開始すると、最盛期には年間で50万枚もの生産量がありました。他社の追従を許さない高品質なはんてん、独自の生地を使った婦人服ブランドの展開ができるのは、糸選びから、織り、デザイン、そして縫製や販売までを自社生産するこだわったものづくりがあってこそ。時代とともに変化し、進化を続ける織物メーカーです。
そんな宮田織物のイベント「宮田織物のしごと展」を開催するにあたり、アパレルブランド「day un day(デイアンデイ)」と一緒に、オリジナルわた入れはんてんの共同制作させていただきました。
day un dayに宮田織物の生地へ直接ドローイングしてもらい、裁断、わた入れ、縫製などを宮田織物の工場で行っていただいた、世界に一つだけの「オリジナルわた入れはんてん」です。
今回のイベント「宮田織物のしごと展」の当初からあったコンセプトは、前回と同じ手法にはしないでおこうということ。イベントの方向性は、宮田織物という会社の仕事やそこで働く人たちのことをしっかりと紹介しようと考えていました。
ぼくらは昨年GWに「墨田と筑後の仕事展」というイベントで、うなぎの寝床の型紙を使わせてもらい、墨田区でしか作ることができない東炊き染の生地を使った「東炊き染もんぺ」を作りました。
オリジナル商品を作るとなると、我々が実際に手を動かし作るわけではないにしても、時間と手間はどうしてもかかり、限られた時間が分散しまうことで深堀ができないという懸念もあり、オリジナルを作ることは考えていませんでした。
ところが、2018年10月に長野県松本市にアトリエを構えるday un dayのアトリエを取材で訪れたことがきっかけで、方向性が大きく変わることになります。
day un dayは長野県松本市にアトリエを構えるアパレルブランドです。着心地だけでなく、作っている自分自身がストレスなく心地の良いと感じられる服を素材からこだわり、一人で企画から、生地から作る服の制作、そして販売までを手掛けています。
オリジナル商品を作ろうと思った理由は、二点。
まずはday un dayを取材させていただいて、中井さんのものづくりに対する想いに”のしごと”が共感し、day un dayの柄のはんてんをこの目で見てみたいと思ったことでした。
そしてもう一点は、中井さんを取材した日に着ていた服が宮田織物の生地を使って、自分で作った服だったこと。詳しく聞くと、宮田織物へ見学に以前行ったことがあることが分かり、不思議なご縁を感じたこと。
イベントの方向性を少し変えてでも、オリジナル商品を作ってみたくなり、すぐに中井さんに一緒に作ってもらえないかと相談し、快諾いただけたことで、今回のコラボが実現しました。
こうして決まったオリジナルはんてん制作。
実際に生地へドローイングを行う作業も、せっかくなら現地の空気を吸いながら宮田織物の工場で行おうということで、”のしごと”が宮田織物へ取材へ行くタイミングで、中井さんにも同行していただき、福岡県筑後市へと向かいました。
最寄り駅には、営業の平野さんが車で迎えに来てくださいました。たくさんの方の協力により実現したオリジナルはんてんですが、全ての部署に声をかけて取材の手配から、はんてん作りの調整までこの人なくしては間違いなく実現できなかったと思います。
こうして、工場の取材とインタビュー、そしてオリジナルはんてんの制作(生地の制作まで)を丸二日でまとめて行う、強行スケジュールがスタートしました。
工場で働く人たちにお話を聞いてイメージを膨らませていく
中井さんと共に宮田織物へ到着し、まずはみんなで宮田会長と吉開社長に一緒にお話を伺います。
会社の創業期の頃のこと、時代とともに変化を重ねながら試行錯誤を続けてきたこと、大事にしていることなど、ものづくりの基本とも言える大切なお話をお聞きしました。
その後、工場をみんなで一通り見学させていただき、中井さんに少しずつはんてんの生地に描く柄のイメージを膨らませてもらいます。はんてん作りの工程はもちろん、工場の中の温度やにおい、働いている人たちの表情や雰囲気、この地域はどんなところなのか、そんなことをひとつひとつ丁寧に感じ取っていき、生地へと落とし込んでいきます。
そう、今回描いていただくday un dayの模様は、この福岡出張で感じたことをそのまま描いてもらう完全オリジナルの柄です。中井さんが作る服のコンセプトは「作るのも着るのも気持ちの良い服」。我々から特に指定や要望は出さず、自由に感じたことを描いてもらいます。
たまたま残っていた山並はんてんの生地
描くための生地は、中井さんにday un dayらしい生地をいくつかセレクトしていただき、事前に宮田織物の方でもはんてんにする上で問題がないかを確認をしてもらっていました。
ところが、この日に合わせて届くよう生地問屋さんへ手配した生地は、開けてみると全くの別物。これはまずいとうろたえる我々に対して、「うちの生地を使ったらどうですか?」と、営業の平野さんから。
そうだ、宮田織物は生地を作っている工場だったんだと、当たり前のことに今さらながら気づき、大変ありがたい提案に甘えさせていただくことになりました。そうと決まれば、すぐに工場の生地置き場へ案内してもらい、莫大な生地の中から「山並はんてん」の余り生地が見つかり、使わせていただくこととなりました。
この生地は、day un dayの世界観にもマッチしており、中井さんとしてもむしろこっちが使えるならこっちの方が良いということで、結果的には最大のピンチが、良い方向へと転じることになりました。長年ものづくりをしている工場だからこそ、すぐに使える生地がたくさんストックしてあり、そしてトラブルに対してすぐに機転が効くあたりは、さすがだと頭が下がるばかりでした。
こうしていよいよ制作はスタート。
ドローイングに使用する顔料は少し独特なにおいがあるため、工場の屋上をお借りしての制作です。幸い天気には恵まれましたが、この日は12月で季節はもう冬。工場の中にいても寒いくらいの気温でしたが、そんなことはお構いなしに楽しそうに準備を進める中井さん。
やっぱり服を作ることが理屈抜きに楽しくて、服作りが心底好きなんだと改めて感じました。
ドローイングに使う材料は、全て長野からご自分で持ってきたもの。
自分の体と同じくらいの大きさのリュックを背負い、道具一式を担いで福岡へやってくるそのパワフルさには驚きです。
中井さんが描いている様子を見るのは、長野で取材した以来二度目。今回もほとんど躊躇うことなく真っ白な生地へ筆を入れていき、迷うことなくどんどん描いていきます。
イメージ作りはそう多くない時間でしたが、もう頭の中に完成イメージがあるのかもしれません。
屋上の硬いコンクリートの上に、ブルーシートを広げて
屋上に置いてあった物干しもお借りした
その間に我々は取材を進め、日も暮れはじめた頃に屋上へ戻ってみると、真っ白だった生地にはたくさんの柄が広がっていて、最終的にはどんな模様ができあがるんだろう、これがはんてんになったらどうなるんだろう、と完成が待ち遠しくなりつつ、一日目は終了しました。
昨日に引き続き、二日目も早朝から制作がスタート。
風が強かったこともあり、この日は室内をお借りして制作を続けることに。とは言っても窓は全開。今日も寒い中での作業が続きます。
一日目は生地のトラブルなどもあり、進行が少し遅れていたため、朝早くから制作を開始しましたが、今日も迷うことなく筆を進めていきます。
なにしろ描く範囲が多いことと、二日で仕上げないといけないというタイムリミットがあったので、迷っている暇はありません。二日目は、朝から夕方まで一心不乱に制作に打ち込みます。
できたてほやほやの生地
福岡滞在の残り時間もわずかになり、時間的にも厳しくなってきたところで、ようやくドローイングは終了。
描きたてのためまだ乾いていないところもあり、色の定着には時間がかかるので、このままの状態で数日間ここで乾燥していただきました。
織で柄を作る宮田織物に対して生地に直接描く手法に興味深々のみなさん
そして、ここから描いた生地を工場で裁断し、わた入れ、縫製といった工程を経て、ようやくはんてんができあがっていきます。
ここからの作業は、宮田織物の企画室のみなさんにバトンタッチするので、企画室の方々に集まっていただき、まずは生地を見てもらい、はんてんの細かい仕様を決めるための打ち合わせを行います。
わたは何パーセントにするのか、紐の形状や内側の生地は、タグの位置どこに付けるか、生地をどのように裁断しどこにどの柄を見せるのかなどなど、細かい部分のヒアリングをひとつひとつ企画室のみなさんからしてもらい、オリジナルはんてんの形が決まっていきます。
そうして仕様が決まり、あとは宮田織物のみなさんへお任せし、福岡を後にしました。
柄がうまく見えるようにと計算しながらの裁断
このはんてんだけのためのわた入れ。とっても贅沢です
福岡から戻って約2週間後に、完成した宮田織物とday un dayのコラボはんてんが東京に届きました。
当初は2カ月ほどかかる予定にもかかわらず、イベントに間に合わせる形で急いで仕上げていただき、予定よりもずいぶん早くサンプルが到着しました。
生地の段階ではちょっと奇抜だった柄は、はんてんになり着ると不思議と落ち着く。アートのような柄でありながら、温かみも感じられ、見ているだけでなんだかほっとする。もちろんたっぷりのわたが入り機能性も兼ね備えています。
若い人やオシャレに敏感な人向けのデザインに見えるかもしれませんが、年齢も性別も選ばず幅広い層へおすすめでき、部屋で着ても外出時に着ても違和感ないのは、昔から愛されてきた宮田織物のはんてんというアイテムと、day un dayの着ると不思議と心地の良いデザインだからこそ。
宮田織物へ伺い、そこで働く方たちと一緒に朝から夜までの時間を共有し、そして生まれたはんてん。山並はんてんの生地を使わせてもらい、糸の整経や機械をイメージをして描いたこのはんてんは「糸並(いとな)みわた入れはんてん」と名前を付けました。
多くの方の生活や仕事の「営み」を支える存在に、このはんてんがなってくれれば嬉しいです。
糸並みわた入れはんてんは、「宮田織物のしごと展」と「day un day exhibition + shop デイデイ布とふく」の二つのイベントで展示をさせていただき、受注予約販売を承ります。また”のしごと”オンラインショップでも受注予約の申し込みが可能です。
ご注文をお受けしてからの制作となりますので、お届けは来年の秋ごろと少し先のお届けにはなってしまいますが、気になる方は、まずは世界に一枚だけの「糸並みわた入れはんてん」を見にイベントへお越しいただければと思います。
宮田織物のしごと展
日時:2019年1月19日(土)~31日(木)
会場:東向島珈琲店(東京都墨田区東向島1-34-7)
day un day exhibition + shop「デイデイ布とふく」
日時:2019年2月1日(金)~7日(木)
会場:東向島珈琲店(東京都墨田区東向島1-34-7)
のしごとオンラインショップ
宮田織物 × day un day 糸並みはんてん(伴天・半纏)※予約販売