のしごとのトップ / この会社もこの仕事も好き (宮田織物のしごと)
宮田織物は、1913年に久留米絣の工房として福岡県筑後市で創業。昭和40年に『わた入れはんてん』の生産を開始すると、最盛期には年間で50万枚もの生産量がありました。他社の追従を許さない高品質なはんてん、独自の生地を使った婦人服ブランドの展開ができるのは、糸選びから、織り、デザイン、そして縫製や販売までを自社生産するこだわったものづくりがあってこそ。時代とともに変化し、進化を続ける織物メーカーです。
「私、この会社が好きなんですよ。布も好きだし、仕事も好きだから、もうここに入れてラッキーとしか言いようがないです。いろいろあったからこの仕事ができるし、好きなことをやらせてもらってるので、仕事していて楽しい。もう感謝です」
わた入れはんてんの生命線とも言えるのは、生地の中にたっぷりと詰め込まれたわた。はんてんの最大の特徴である暖かさ・膨らみ・軽さを決めるのは、このわたと言っても過言ではありません。
今回は、このわたを生地の中に詰める、わた入れ作業を担当する森さんにお話を伺います。
『はんてんのお母さん』。
一緒に働く若いスタッフさんに森さんのことを伺うとそう呼ばれていて、長年働くベテランの方かと思いきや、入社してまだ5年目なんだそう。
お話を伺ってみると、ここで働く前も長年に渡り、布団の仕事をしていたそうで、会社は違えど同じような業種で働いていたと聞いて納得です。今もこの部署の中心メンバーとして、活躍されています。
「以前も自営でお布団の綿を作る仕事を25年していました。その後、職を探してた時にここの正社員の募集を見つけて、たまたま縁あってここに就職させてもらって、自分の中でちょっとラッキーって思ってて(笑)」
入社後すぐにわた入れはんてんの担当だったのでしょうか?
「最初は、縫製の方でアイロンなどの後工程をやってました。アイロンも素敵な仕事だったんです。ファッションの全てを見られるじゃないですか。そこで二ヶ月したところで、はんてんの先輩方が、高齢で辞められるということでこちらに移動しました」
森さんの仕事は、はんてんのわた入れはもちろん、わたを詰めた後、生地のとじ縫製、検品や外注している内職さんの管理までを4人でこなしています。
外部に内職さんを抱えていたり、縫製には外国の方も多いので、やりとりの面で大変ではないでしょうか?
「そうですね。悪いところがあればキチンとお伝えしますが、それがなかなか伝わるときと伝わらないときもありますし、縫製の子も私が入った頃は中国の子たちでしたが、今はベトナムの子たちを採用しています。言葉がなかなか通じなくて教えるときに難しさはあります」
森さんにとって、宮田織物はどんな会社ですか?
「私、この会社が好きなんですよ。布も好きだし、仕事も好きだから、もうここに入れてラッキーとしか言いようがないです。趣味まではいかないけど、いろいろあったからこの仕事ができるし、好きなことをやらせてもらってるので、仕事していて楽しい。もう感謝です。だから、私の場合はやらされてるということはないですね」
取材をお願いしたのは冬。まさにはんてんのハイシーズンということもあり、とにかくたくさん作らないといけないこの時期は、時間と数に追われる大変なタイミングでもあるそうです。でも、森さんはそんな時もほんとうに楽しそうにいきいきと仕事をしています。
「去年とにかくたくさん出たので、今年はもう間に合ってないんです。人数は限られてるし、できる量って決まってますから、内職される方も含めて修理がでないように考えてやっています」
自分がわたを入れたはんてん、どんな方に着てもらいたいですか?
「私たちの小さい頃に着てたのは、外がポリエステルのものが多かったんですが、うちのはやっぱり素材がいいでしょ、綿の肌触りがいいし、中のわたもいい。だから、私は感謝の意味も込めて親戚やみなさんにあげてます」
宮田織物のわた入れはんてんは、その名の通り生地の中にたっぷりの中わたが詰め込まれています。この中わたは、同じ福岡県筑後市にある寝具などを作るメーカーが『新川桂(にいかわけい)』が、はんてんに一番適した配合でブレンドしたものです。
現在、はんてんに使われているわたの割合は、膨らみを抑えた綿100%のもの、布団のような膨らみのある綿80%ポリエステル20%、そして絹100%の3種類。どれも着心地と暖かさにこだわり、惜しみなくわたが入るオリジナルブレンドです。
わたを入れる作業は、二人一組で行われる。掛け声もかけていないにも関わらず、二人の息はぴったり。ぱっぱっぱっと、手際よく黙々と次から次へと生地にわたが入れられていきます。簡単そうに見えて、実は相性があって、わたを偏りなくまんべんなく入れることで、見た目が美しく、着た時にしっかりと包み込んでくれるような暖かさが出るようです。
二人の息があって、一通りできるようになるにはどのくらいかかるのでしょうか?
「よく聞かれるんですけど、ちゃんと教えていって、相手を見ながらある程度までは毎日やってれば3カ月くらいで阿吽の呼吸でできるようになります。でも、ちょっとした加減でちぎれたり、中のわたがバラバラになることもあるので、相手を思いやってやることが大切ですね」
宮田織物のはんてんは、他のと比べてどうですか?
「私たちもあんまり知らないんですよ。勉強したいなって思っても自分のところのはんてんばかりで。でも、負けてはないと思うんです。それは自信あります。私たちもこれに関わると職業病で自然と他のお店で見るんですが、改めてうちのはいいなって思います。それだけの価値があるのは、作ってる私たちが言うから間違いないですよ」
最後に、宮田織物の良いところは?
「わたにしても生地にしても、自然のものを洋服の中に取り入れてるので肌にも優しいんです。でも、正直わたは扱いにくいところがあるんです。わたが多ければちぎれやすく、使っているうちにわたがよったり、洗濯もしにくいんです。すごく難しいんですけど、わたにはそれ以上の良さがあります」
「だから生地とわたは素晴らしいし、デザインも今はすごくオシャレでモダンになってきてるから、ファッションですよね。私たちのときは受験勉強のための防寒着ってイメージだったんですけど、ちょっと外に出ていってもオシャレなので、日本だけじゃなくて海外にも広がっていけばいいなって」
宮田織物のしごと展
日時 2019年1月19日(土)~31日(木)
会場 東向島珈琲店(東京都墨田区東向島1-34-7)
・創業106年の老舗織物メーカー 宮田織物
・久留米絣の織元から一貫生産へ
・この会社もこの仕事も好き
・若手が活躍するためにできること
・何をやるかではなく誰とやるか
・何年経っても毎日が試行錯誤
・自分が着たいと思う服を作る
・作るのも着るのも気持ちの良い服
・オリジナルはんてんが完成